ブギーマンがやってくる、ヤァヤァヤァ!

こっち見んな

Halloween/1978/ジョン・カーペンター/アメリカ/91min
Halloween/2007/ロブ・ゾンビ/アメリカ/109min



こないだのハロウィンの夜に78年版「ハロウィン」観たよ。07年のリメイク版が実は公開初日の初回で観に行った映画だったりします。そんな思い入れのあるこの二作品について比較して何か書くね。でもあと1年待ったらちょうど30周年だったよね、ゾンビさん。
どうでもいいですがカーペンター監督と彼の作品が好きすぎてやばいです。先日亡くなったウェス・クレイヴンの分も長生きしてほしい次第。カーペンターさん他のオムニバス作品「ボディ・バッグ」に酔っ払い役で出てたよね、クレイヴン。そんでもってサム・ライミはロッカーの中の死体役だった。本当にどうでもいい。



有名な話だけどローリー役のジェイミー・リー・カーティスは
サイコのスクリーミングおねーちゃん、ジャネット・リーの娘だよ
カーペンターの「ザ・フォッグ」では親子共演してます

ジョン・カーペンター監督の名を一躍轟かせることとなった傑作ホラー映画「ハロウィン」。バンドサウンドに造詣の深い監督本人が作曲した印象的なテーマ曲と神出鬼没で正体不明の殺人鬼「ブギーマン」の織りなす物語は終始君の悪さを漂わせる。ホラー映画フリーくで本作の熱烈なファンのミュージシャン、ロブ・ゾンビがリメイクした「ハロウィン」。両者ともに好きなのだが、両者には決定的に違う点がある。


オリジナル「ハロウィン」のあらすじ(Wikipediaより引用)


1963年10月31日のハロウィンの夜。イリノイ州にあるごく普通の平和で小さな町、「ハドンフィールド」で殺人事件が起こった。現場のマイヤーズ家で殺害されたのは、その家の長女、ジュディス・マイヤーズ。そして、彼女を殺した犯人はなんと、マイヤーズ家の長男(ジュディスの弟)で、まだ6歳のマイケル・マイヤーズであった。マイケルは責任無能力の異常者として、直ちに精神病院に措置入院となるも、マイケルの担当医を務める事になったドクター・ルーミスは、マイケルの中に秘められた危険性に気付き、彼に対する警備体制の強化を求める。しかし、医師達はマイケルがまだ幼いのを理由に相手にしようとしなかった。悪夢の殺人事件から15年後。21歳になり、それまで病院でおとなしくしていたマイケルは突如脱走。途中で殺害した作業員から作業つなぎを奪い、更には金物店で白いハロウィンマスクと洋包丁を盗んだマイケルは、高校生のローリー・ストロードの命を狙う。その一方、マイケルの担当医で、拳銃を持ったルーミスが、マイケルの入院していた病室に残された「Sister(姉)」の文字を頼りに、彼の実家のあるハドンフィールドに訪れていた…。

オリジナル版「ハロウィン」

オリジナル「ハロウィン」の素晴らしさは何と言ってもその監督自身によるテーマ曲と、殺人鬼ブギーマンの理由の分からない執拗なまでのローリーへの執着だろう。語ること少なく、ただ淡々と殺人鬼はヒロインを追う。そこに怖さを感じるのは現在のスプラッタをよく知る若者には難しいかもしれない。だがそのカメラワークには目を見張るものがある。

物語の始まりはこうだ。

少女が両親不在のハロウィンの夜にボーイフレンドを連れ込む姿から物語は始まる。「今夜は弟しかいない」とベランダで話した後、彼らは家の中へと入っていく。カメラはそのまま長回しで家の裏手へと回り、その途中で階段を上る二人の姿を捉える。さらにその奥にあるキッチンの窓から殺人鬼は侵入し、大きな包丁を手に取る。ボーイフレンドが階段を降りた後、そいつは二階へと上がり彼女を惨殺する。

マイケルとローリー

先のあらすじにある通り、その殺人鬼とは少女の6歳の弟・マイケルだ。この一連の動きを長回しで撮ることにより、我々は殺人鬼自身とその共犯者であることを強要される。
その後もカメラがカーティス演じるヒロイン・ローリーを追うシーンが多々出てくるのであるが、彼女が出てくるシーンの多くもまたマイケルの視点だ。
殺人鬼の誕生という導入が終わり、15年の月日が流れた。通学中のローリーがこちらに向かってくる。定点のカメラが凝視する。ローリーは道を横切る。横切る姿をカメラは追う。反対側へとたどり着いたローリーは、また前へと歩を進める。カメラは彼女が行き過ぎるのを追う。これは立ち止まって歩く人を見つめる人間のそれだ。その後仮面の殺人鬼・マイケルが姿を表す。昼間のカメラワークはほとんどが遠くから彼女を見つめる彼の視点と第三者的視点であるが、実は夜になってからは主に襲われる者と第三者の視点へと変わっている。襲われる者が誰であるかを印象付け、その後我々は彼らと時間と立場を共有することになるのである。実に巧みだ。我々は狩る側にも狩られる側にもなるのだ。それでいて離れた場所から眺めてもいる。このように撮り方の違いだけで恐怖を見事に演出している。最近よく見かける唐突な怖がらせるためだけの演出もない。編集の粗も見受けられるが、一つ一つのカットには意味がある。
だが物語は彼の詳細な素性を明らかにすることなく幕を閉じる。終盤で少しだけ、マスクの下に隠された、凶悪な殺人鬼には到底見えない青年の顔がちらりと映る。それが本作の不気味さを増している。暴力的だとカットされた部分も多分にあり、現在はExtended Editionの名目で10分ほど追加されたソフトも手に入るが、それでも35年前の作品である。刺激の強い切り株描写に慣れた我々が観ると物足りないと感じるだろう。しかしながらそこには日本的な侘び寂びにも似た風情を感じることができる。語られなかった出来事を想像する楽しみとでも言うのだろうか。全てを語らないからこそより恐ろしいものが想像される。そして本作が80年の「13日の金曜日」や84年「エルム街の悪夢」のようなフォロワー及び「不死身の殺人鬼」というコンテンツを生み出したのは確かと言えよう。またこの白いマスク(有名な話だが、スタートレックのカークのマスクを白く塗ったものだ)にツナギというユニフォーム然として出で立ちを殺人鬼に与えたことにより、彼がよりキャラクターとしての強さを持ち得た点も評価に値しよう。


余談だがが、ローリーがシッター先の少年トミーにせがまれて一緒に観ている映画は「遊星よりの物体」(51)だ。カーペンターの名を世界中に轟かせた81年の「遊星からの物体X」はこの作品のリメイクである。カーペンターもこの作品への愛情をこじらせた結果、リメイクする機会を得たことは、次に書くロブ・ゾンビが本作をリメイクしたこととよく似ており興味深い。





16年間精神病院に引きこもってた割にこの恵体っていうのよっぽど怖い
そしてダニー・トレホ(すぐ死ぬ)

リメイク版「ハロウィン」のあらすじ(Wikipediaより引用)

イリノイ州の田舎町で暮らす少年マイケル・マイヤーズは、学校で友達はおらず、家族の中でも孤立していた。そしてハロウィンの夜、マイケルはいつも自分のことを馬鹿にしていた母親の恋人と実姉とその友人を惨殺するという凶行に及んだ。その後彼は精神病院に入院し、ルーミス医師によって診察されることになる。だが17年後、成長したマイケルは妹を探すために精神病院を脱走し、再び殺人を開始する。

ロブ・ゾンビ版「ハロウィン」

ロブ・ゾンビはヘヴィ・メタルバンドのWhite Zombieのフロントマンにして、現在はRob Zombieというソロ名義で活躍するHR/HM界の重鎮だ。ちなみにバンド名White Zombieの由来はもちろん、ベラ・ルゴシ主演の元祖ゾンビ映画「恐怖城/ホワイト・ゾンビ」(32・米)だ。このエピソードからも分かる通り、彼は大のホラーファンで、4000本のホラー映画コレクションを所有しているという。そんなホラー映画に対する熱狂が、彼に5本のホラー映画を監督させるに至っている。
彼の監督作品「マーダーラードショー」(03)とその続編「デビルズリジェクト」(05)は筆者の好きな作品だ。撮り方としては普通ではあるが、そこには彼のホラー映画愛がこれでもかと詰まっている。ロブの3作目の映画作品がこのリメイク版「ハロウィン」(07)である。
ロブの作品からはキャラクターに対する愛情が溢れている。というよりも彼の妻であるシェリ・ムーン・ゾンビへの愛である点も多いのだが。キャスティングにも余念がなく、「悪魔のいけにえ2」のビル・モーズリイやジャック・ヒル作品の常連であったシド・ヘイグのようなレジェンドを起用している。各々の登場人物の設定を細かく詰めてあるので観ていてすごく楽しいし、何度見ても何かしらの発見がある。ストーリーも既存のホラーを寄せ集めたようでいて、リミックスがとても上手い。まるで彼が自身の楽曲にホラー映画の音をサンプリングしていたように、大変巧みに全てが混ざり合っているのだ。だが、それが彼の「ハロウィン」に少し悪く影響してしまっている。

筆者が本作を観に行ったのは、本格的に映画に入れ込む前だった。その時は「遊星からの物体X」という作品はもちろん、ジョン・カーペンターの名前すら知らなかった。オリジナルの「ハロウィン」など観てもいなかった。なぜ観ようと思ったかといえば、メタラーである筆者には「ロブ・ゾンビ監督作品」の文字が魅力的だったからだ。

本作は決して悪い映画ではない。物語は丁寧に語られ、『何故マイケル・マイヤーズがここまで凶悪な殺人鬼になり得たか』が事細かに描写してある。そのおかげで当時、エセホラーマニアだった筆者には面白く感じられたし、ロブの音楽観が反映されたダークな映像と描写に満足した。だが一部で(主にオリジナルファンの間で)本作は不評だった。何故かといえば、ブギーマンが明確なバックグラウンドを持ってしまったことで、彼の神出鬼没な部分や動機の分からぬ不気味さが失われてしまっていたからだ。その後筆者も78年版を観たのだが、当初はリメイクからすればぬるい作品だと思った。切り株シーンも少なく淡々としている。それに最後まで何故ローリーを狙ったのかがわからない。しかし多くの映画を見た後に今回このように比較してみたところ、あちらの描写の細やかさに舌を巻いた。やはり評価される作品にはその理由があるのだ。

話がオリジナル賛美の方へ逸れてしまった。
ロブ・ゾンビはオリジナルの「ハロウィン」を観て、彼なりのマイケルの物語を考えたと思われる。多分子供のころ初めて観たときから彼の中に新たな物語を作っていたのだろう。2の内容も含んだ彼の「ハロウィン」を創造したことからも明白だが、きっと全ての続編を観ている。それを総合しつつもロブ・ゾンビの「ハロウィン」を作ろうとしたことは想像に難くない。全シリーズを考慮しながら得意のマッシュアップで再構成し、また彼の「マーダーラードショー」及び「デビルズリジェクト」で見せたグロとゴアがふんだんに盛り込まれた結果、殺人鬼になった経緯のはっきりとしたマイケル・マイヤーズ=ブギーマンが誕生した。だがそれはオリジナリティよりも二次創作物的な意味合いの方が強かったように見える。ロブらしい設定も付け加えてはいるのだが、蛇足感があったり、くどすぎると感じてしまう。「マーダーラードショー」でマッシュアップの巧さを見せつけ、「デビルズリジェクト」でオリジナリティ溢れるクライムムービーを撮ったロブであったが、あまりにも「ハロウィン」に対する狂熱が過ぎたのだろう。姉を殺した動機を明らかにし、またローリーとの関係から何から全てを一本に収めたい。その思いが本作を生み出した。オリジナルが低予算ながら撮り方という部分で伝説となったが、リメイクはゴアと物語で攻めているのだ。
リメイクでは人が大量に死ぬ。もちろんオリジナルを踏襲した殺人も多数出るのだが、ロブが悪ノリしたようにしか思えない死人もたくさん出る。個人的に好きなのはツナギを奪われた男性だ。サービスエリアのトイレでポルノ雑誌を読んでいたガタイのいい黒人男性が、何度も個室の扉を叩かれ怒って出たところでマイケルに殺られる。ジャック・オブ・ランタンに顔をめりこませて死ぬ少年など、ユーモラスながらエグい死がふんだんに出てくる。監督のデビュー作にあった悪趣味が爆発した殺人描写は、ホラーを見慣れた人間には楽しく映ることだろう。こいつ、楽しんでやがる。そんな映像なのだ。




終わりに


YouTubeで見つけた動画が上手く対比してくれていた。撮り方もだが使われる音楽の違いも大変興味深い。故ドナルド・プレザンスの盟友であったマルコム・マクダウェル(「時計じかけのオレンジ」で問題児アレックスを演じた)の起用は監督らしさがあり良いキャスティングだった。特に彼らはイギリス出身で、イギリス英語を話すのがルーミス医師の印象を崩しておらず良い。アレックスも丸くなったものだ。もちろんセリフも踏襲しており、オリジナルファンにも嬉しい演出が小憎らしい。しかしオリジナルの映像的なアプローチと、語らないからこそに残された謎の余韻にリメイク版は及ばなかった。いや、ロブは及ぶつもりもなかったろう。伝説のリメイクができたということだけでも幸せだった。リメイク版はそんな名誉であったり、監督自身が楽しんでいる部分が伝わってくる映画でもあった。伝説は伝説的なヘヴィ・ロックの歌い手によって蘇ったのだ。



おまけ




ザ・フォッグでジャネット・リーとジェイミー・リー・カーティスが共演した時の写真をネットで見つけた。さすが親子、そっくりだ。そしてこの親父ノリノリである。ちゃっかり冒頭にも出ていやがった。

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