Frank - I Love You All


FRANK/2014/レニー・アブラハムソン/アメリカ/95min


※7月13日に公開した記事に追記しました。


公開時から気になっていた「フランク」を観ました。青春映画であんな突拍子も無いお面男が中心人物なのに終わり方が妙に現実的なのが印象的だし、ファンタスティックに美しく物語を演出していなくて良い。クリエイター系の方はきっと好きです。ただまともな人間が一人もいないので疲れるっちゃつかれる。何回も観たいという気持ちもあるけど時間を置かないと観られない感じ。

バンドの話なのですが、セッションシーンで生み出される音が実験音楽的で個人的にツボでした。ラストシーンの曲が頭から離れないのでご紹介。本当はサントラよりも断然劇中の音が良いのですが、ネタバレになるのでこっちを。


追記:検索してこの記事に来る方がいらっしゃったので、映画(というかフランクという人間について)とこの曲について思ったこと少し書きます。ネタバレです。



この物語は平凡な男、ジョンの視点で進む。ジョンはミュージシャンを目指す若者だが芽がでない。そんなある日キーボードが入水自殺を図ったバンドで演奏することになる。そのバンドの中心人物が奇妙な被り物を被ったフランクだ。彼の創り出す音が非凡であることに気づいたジョンはバンドに参加し、自身のSNSでこっそりと発信する。アルバムが出来た頃、それがきっかけでバンドはテキサスの音楽祭に出演することになるが、大舞台を前にフランクの様子がおかしくなっていく。

ラストシーンで歌われるのがこの"I Love You All"なのだが、この曲はどういう意味を持つ曲なのか。

その前にフランクという人間について僕が思ったことを書く。
フランクは多分醜形恐怖症なのだと思う。子供の頃から顔を隠して写真に写り、父親が仮面を作ってからずっとそれを被っている。極度に自分の姿を嫌い、見られることを恐れているのだ。仮面はフランクを「フランク」にし、仮面がミュージシャン「フランク」を形成している。匿名性とでも言えばいいのだろうか、アイデンティティが著しく低いので、その『顔』という一番自分を表す場所を隠すことで、自我を保っている部分があるのだろう。醜い容姿がなければ自分を愛してもらえる。同時にその仮面という小さな空間が彼にとっての居場所になる。その中にいれば誰も彼を傷つけることはないし、その中で彼とその音楽は完結しているのだ。その仮面の中でだけは自分で居られる。だから他のメンバーに対してドライでミステリアスなフランクがいる。

自己承認欲求はジョンのそれが顕著だし分かりやすい。彼は誰かが自分の音楽の才能を見てくれるのではないかとSNS(Twitter)にハッシュタグをつけて投稿する。広大なネットの海にも埋もれ、誰にも見つけてもらえなかったところに舞い込んできたバンドのピッチヒッター。別荘でのレコーディングセッションに誘われ、そこでフランクの才能を確信したジョンは、その様子をTwitterとYouTubeに投稿し、そして彼の求めた反響を見事に手にした。自分が独りで作ったものが受け入れられたかのような錯覚にすぎないだと気づくことができず、平凡で面白味のないジョンのセンスを押し付けられたバンドはおかしな方向へ向かう。他人の褌で相撲を取ろうとした結果が、フランクの才能を殺し失踪させたという形で出てしまった。

例え自分のことが嫌いでも承認欲求はあるものだ。フランクには自分を表現する手法として音楽があった。そしてそれが自分という醜い存在をも肯定してくれることも知っていた。彼のバンドは彼の才能を受け入れてくれている。フランクの音楽は彼のセンスと突拍子もない思いつきが創り出す。その音楽もなのだが、「フランク」という「個人」のことを認め、そして彼に惹かれた者が集まったのがThe Soronprfbsだった。しかしフランクは自分を肯定できないあまりにバンドが彼を本当に好きだということに気づけなかった。大舞台を前に、例え仮面があっても自分の姿を晒すことに恐怖を覚えたフランクは、自分を認められず、他者は自分を愛さないと思い込み「愛される音楽」を書こうとして潰れてしまう。承認欲求が強いあまりに嫌われることや失敗を恐れ、何も出来なくなったのだ。クララがいなくなり、他の二人もジョンの異常な音楽祭出演への執着に嫌気がさし居なくなってしまう。残された二人は承認欲求の塊ながら、片や才能がなく、一方も自分を認められず、最悪の展開を迎える。

本題の曲の話だが、"I Love You All"に込められた意味と、曲中のI love you allの意味とは。ラストシーン、空中分解してしまったバンドの他のメンバーと再会したフランクとジョン。フランクがクララに対して愛を語っているという構図にも見えるが(そうなると「君の全てが好きだ」という意味になるが)、歌詞の示すシチュエーションは「お前ら全員大好きだ」という意味合いが強いように見受けられた。「ここに居られて本当に良かった」「場末のバー、臭い便所、チクチクする股間」。その場所にある物と自身の胸の内を口にして即興的にライムを作り、それに合わせ演奏するバンド。フランクには仮面以外にも居場所があったことに、失って初めて気づいたのだ。セッション中誰も不平を言わずフランクの才能に惚れ込み彼についてきていたこと。二人ほどおかしくなっても一緒に音楽を作り続けた仲間。仮面の中は安全地帯だが、そこに留まることは、外部を遮断する結果になった。例え仮面を被っていなくとも、顔に傷があり十円ハゲがあっても、素顔のフランクも(素顔の彼こそが)「フランク」なのだ。仮面という空間がなくなり、やっとバンドの距離は縮まる。ジョンは多くの人に認められたかったのだが、フランクの場合は「自分を認めてくれる人からの愛」を欲していたのだ。欲していたものがすぐそばにあったことに気づかず、気付いた時、対象を前にして出てきた嘘偽りのない言葉。愛を受けたことに対して「愛している」という答えがこの曲には込められている。

ジョンはバンドを去り、フランクはバンドへ戻る。そこは仮面の中も同じだ。フランクはフランクで、皆彼を認めている。フランクには居場所があった。きっとそういうお話。





せっかくなので歌詞を貼っておきます。意味のない言葉の羅列も好き。

El Madrid, it's nice to see ya
It's really nice to be here
I love you all

Stale beer, fat fucks, smoked out, cowpokes
Sequined mountain ladies
I love you all

Put your arms around me, 
Fiddly digits, itchy britches
I love you all

I love you all
I love you all
I love you all

Washrooms smell, they could be cleaner
Stench of cigarettes and stale urea
I love you

Prodigal son waits to return
To where the dogs play pool
I love you all

I love you all
I love you all

I love you all

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